衣服の「半所有」によるサーキュラーリテールプラットフォーム
-Overview-
01|Objective
DNPの保有するアセットを活用した三方よしの「サーキュラーリテールプラットフォーム」の構築。今回のプロジェクトでは、0からのリサーチ、サービスメイキング、検証、ビジネスモデルの設計が求められました
02|Role & Deliverables
6名チームのチームメンバーとして、主にUI/UXデザイン、Strategy design、コンセプトムービー作成を担当しました。DNP様との密な連携を図りながら、プロジェクトを推進しました。 特に貢献した点は、「半所有」という革新的なコンセプトの創出と、それを実現するためのビジネスモデルの戦略設計です。ユーザーの潜在的なニーズと事業の収益性を両立させる サービス設計により、サービスの実現可能性を高めることに貢献しました。
03|Challenge
ユーザに我慢や負担を強いることなく、自然と環境に貢献できるようなサービス構造を作り上げ、行動変容を促すことが求められました。今回アパレル産業に着目した中で多くの消費者が買った服に飽きてしまい、着なくなってしまったが、捨てる罪悪感や手放したらもう着用できない不安などから、最適な処分方法がないと現状に着目し、サービスの設計に取り組みました。
04|Outcome
DNP様から、テーマ通りの三方よしの素晴らしいサービスを設計できたと言う評価をいただきました。またクライアントの保有するRFID技術との親和性が高い点も評価いただきました。
About Project
大日本印刷株式会社(DNP)からの依頼によるサーキュラリテールプラットフォーム
の構想を行いました。
近年SDGsの観点から地球、人間社会の消費のあり方を見直す動きが見られます。
ただ、地球環境の保護を重要視する一方で、その反対にユーザーの負担や我慢が増えたりすることで体験価値が損われることが多いです。そんな中デザイン思考によってユーザーが楽しく、価値を感じる仕組みを作ることで自然と環境に貢献できるような行動変容を促すようなサービスを考案してほしいということで、今回大日本印刷様と協業し、循環型消費社会を実現するプラットフォームサービスを構想しました。
地球、ユーザー、企業、それぞれが三方良しのビジネスモデルを設計
することが求められました


Challenge
私たちは持続可能な社会の実現に向けた取り組みとして、特に衣服分野に着目しました。アパレル産業における大量生産・大量消費・大量廃棄という構造的な課題は深刻で非常に環境負荷が高いと考えたためです。トレンドの短期化やマーケティングの過熱により、消費者は短いサイクルで新しい衣服を求め、その結果、大量の衣類が生産、廃棄されてるという現状があるため、この業界に狙いを定めました。
アパレル産業は世界の層二酸化炭素排出量のうち約10%を占めている。

このような社会背景を踏まえ、「所有」のあり方を見つめ直し、新たな消費体験をデザインすることで、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しました。
Process
Research
Desk research
まず初めにアパレル産業の与える環境負荷についてデスクリサーチを行い、ライフサイクル全体の中で、どの工程においてどれぐらいの環境負荷が発生するのかを把握しました。
調査の結果、衣服の生産から廃棄に至るまでのライフサイクル全体が、地球環境に深刻な影響を与えていることが改めて確認されました。さらに、国内アパレル市場の動向調査から、大量に生産された衣服の一部しか消費者に活用されず、多くの衣服が眠っている、あるいは廃棄されている現状が明らかになりました。年間約18枚の衣服が購入される一方で、約25枚が手放されるか、ほとんど着用されないまま保管されているというデータは、私たちが取り組むべき課題の重要性を裏付けるものとなりました。
現状と理想状態の調査
まず初めに以下のAs-IsとTo-Beを把握するため4名の洋服付きの学生にインタビューを行いました。

User interview
より詳細なユーザーのニーズや課題を把握するため、まずは特定のペルソナは設けず、大学生を中心に幅広く、8名に対し個別インタビューとアンケート調査を実施しました。
インタビューでは、衣服を探す、買う、着る、保管する、そして手放すという一連の行動における体験について深く掘り下げました。特に、手放す際の具体的な課題や感情に焦点を当てた結果、「(特にフリマアプリなどを利用する際の)手間が面倒である」、「罪悪感をもって捨ててしまう」、「知り合いに譲るとき変なものは渡せない」、「ゴミとして処分することに抵抗がある」といった具体的な不満や心理的な障壁が存在することが示されました。これらの結果から、ユーザーは現状の服の手放し方に対し、妥協を強いられながらも最適な解決策を求めていることが示唆されました。
Proving
インタビュー調査で得られたインサイトに基づき、「半所有」という新たなコンセプトを核としたサービスのプロトタイプを開発し、大学生男女計12名を対象に検証を行いました。サービスの信頼性を担保することも目的としました。
プロトタイプでは、参加者が「もう着なくなったけれどなかなか手放せない服」を撮影し、その写真をウェブサイト上に集約。他の参加者が、あたかもサービスを通じて借りるように、興味のある服を選ぶ体験を設計しました。実際の貸し借りには宅配便を利用し、サービス利用の流れを擬似的に体験できるようにしました。
このプロトタイピングを通じて、とにかく楽だったという声や、家を一歩も出ずに洋服の貸し借りが完結!するという体験価値(PAGE 48)が示され、ユーザーが手放すことなく服を活用できることへの価値を感じていることが明らかになりました。特に注目すべき点として、プロトタイプ体験後、複数の参加者から「これからこのサービスを利用できるならより質の高い服を購入するようになる」という発言が得られました。これは、衣服を単なる消費物ではなく、将来的に収益を生む可能性のある資産として捉える「衣服の資産化」という意識が芽生え、ユーザーの購買行動に変化を促す可能性を示す重要な発見です。
Business model
本サービスでは、プラットフォーム利用料とプレミアムプランを主要な収益源とし、持続可能な事業運営を目指します。DNP様のRFID技術を活用することで、管理コストの効率化を図ります。
年会費: このサービスを利用するための年会費。
プラットフォーム利用料: 借りる側、または貸す側から、利用頻度に応じた料金を徴収します。
プレミアムプラン: 送料無料や優先予約などの特典を提供し、付加価値を提供します。
ここで議論になったことが定額制にするのか、都度課金にするのかということです。議論の末、
質の良い服を集めることが何より最重要
→衣服の資産化が根幹であり、都度課金の方が貸し手ユーザーへの報酬が多くなる
→服の質によって貸し出し金額貸し出される回数が変わると報酬が変わる
→結果として、より質の高い市場価値の高い服が貸し出されるようになる
→在庫稼働率があがる
→売り上げが増える。
という理由から、都度課金のモデルを採用した。
仮に、定額制であれば、ユーザへの報酬が低くなり、魅力的な欲も集まりづらく、結果として在庫リスクだけが高くなってしまう。
服ごとに値付けし、都度課金制にすることで、サービスの継続的な成長を可能にするものと考えています。
What I learned
本プロジェクトを通して、サービスデザイナーとして以下の重要な学びを得ました。
ユーザーの深層心理の理解: 行動の背景にある感情や価値観を深く理解することの重要性。特に、手放すという行為には、合理性だけでなく、罪悪感や愛着といった複雑な感情が絡み合っていることを再認識しました。
固定観念にとらわれない発想: 「所有」という当たり前の概念を疑い、新たな視点から課題を捉えることの重要性。半所有という考え方は、その良い例だと感じています。
プロトタイピングの価値: 実装前にユーザーの反応を確かめ、課題を早期に発見し、改善に繋げることの重要性。ユーザーの生の声こそが、より良いサービスを創るための羅針盤となることを改めて実感しました。
社会課題への貢献意識: デザインリサーチは、単にユーザーの利便性を追求するだけでなく、持続可能な社会の実現といったより大きな課題に貢献できる可能性を秘めていることを確信しました。
今後も、これらの学びを活かし、より良い社会の実現に貢献できるようなデザインリサーチに取り組んでいきたいと思います。